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広島地方裁判所 昭和41年(行ウ)25号 判決

広島市草津南町一、八四七番地の三

原告

飯島忠夫

右訴訟代理人弁護士

阿佐美信義

広島市加古町九番一号

被告

広島西税務署長

綿重三郎

右指定代理人

検事

平山勝信

小川英長

法務事務官

宇都宮猛

大蔵事務官

三宅正行

吉富正輝

広光喜久蔵

高橋竹夫

岡野進

貞弘公彦

右当事者間の昭和四一年(行ウ)第二五号所得税賦課決定取消請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告が昭和三九年七月二七日付で原告に対してなした原告の

(一)  昭和三五年度分の総所得金額を金二、九三一、三七二円と認定した処分のうち金二、五五二、〇三八円を超える部分

(二)  昭和三六年度分の総所得金額を金三、八六七、一一六円と認定した処分のうち金三、〇二四、八一九円を超える部分

(三)  昭和三七年度分の総所得金額を金三、一九八、六三一円と認定した処分のうち金三、一六九、六五二円を超える部分

はいずれもこれを取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は一五分してその一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一、請求の趣旨

被告が昭和三九年七月二七日付で原告に対してなした原告の

(一)  昭和三四年度分の総所得金額を金一、六〇〇、七九八円と認定した処分

(二)  昭和三五年度分の総所得金額を金二、九三一、三七二円と認定した処分のうち金一四四、〇〇〇円を超える部分

(三)  昭和三六年度分の総所得金額を金三、八六七、一一六円と認定した処分のうち金八八、〇〇〇円を超える部分

(四)  昭和三七年度分の総所得金額を金三、一九八、六三一円と認定した処分のうち金七六、〇〇〇円を超える部分

(五)  昭和三八年度分の総所得金額を金八、二二八、一四二円と認定した処分のうち金八八、〇〇〇円を超える部分

はいずれもこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

第二、請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第三、請求の原因

一、被告は、原告に対し昭和三九年七月二七日付をもつて、原告の

(一)  昭和三四年度分総所得金額を金一、六〇〇、七九八円

(二)  昭和三五年度分総所得金額を金二、九三一、三七二円

(三)  昭和三六年度分総所得金額を金三、八六七、一一六円

(四)  昭和三七年度分総所得金額を金三、一九八、六三一円

(五)  昭和三八年度分総所得金額を金八、二二八、一四二円

とそれぞれ決定し、その頃原告にその旨通知した。

二、そこで原告は被告に対し同年八月二六日異議申立てをしたが、右申立ては同年一一月二四日棄却されたので、更に同年一二月二三日広島国税局長に対し審査請求したところ、同局長は昭和四一年九月一三日付にてこれを棄却し、右棄却の裁決は同月一九日原告に通知された。

三、被告の原告に対する右所得決定処分は、昭和三四年度については雑所得を、昭和三五年度ないし昭和三八年度については雑所得と給与所得を各認定したものであるが、原告は給与所得(昭和三五年度分金一四四、〇〇〇円、昭和三六年度分金八八、〇〇〇円、昭和三七年度分金七六、〇〇〇円、昭和三八年度分金八八、〇〇〇円)については全て認めるも、雑所得については全て否認する。被告は、原告が昭和三四年度ないし昭和三八年度の間に訴外広島工業株式会社(以下広島工業という)に金員を貸付け、利息を取得したとしてこれを雑所得として認定したものであるが、かかる事実はない。即ち

(一)  原告が広島工業に金員を貸付けた事実は全然ない。又、昭和三五年六月頃までは、原告が代表取締役をしている訴外不二建設株式会社(商号変更により現在の社名は不二工業株式会社であるが、以下においては便宜不二建設という)が広島工業に融通手形を交付していたことはあるが、これは同時に同社から同額の約束手形の振出交付を受けていたもので貸金ではなく勿論利息の支払いも受けていない。

(二)  昭和三五年六月以降は、原告は勿論不二建設も広島工業に対し融通手形さえ交付したことはない。(ただし広島工業が訴外福田一夫から手形貸付の方法により融資を受けるに際し不二建設が広島工業振出の約束手形の受取人兼第一裏書人となつたこと並びに広島工業が借受金の弁済を怠つたので、福田から裏書人の責任を追求され、昭和三九年三月末頃不二建設が前記の約束手形を全部買戻したことがある)

(三)  仮に広島工業が被告主張のような利息を支払つているとしても、右利息の収受の主体は少なくとも不二建設であつて原告ではない。

よつて、請求の趣旨記載の判決を求める。

第四、被告の答弁

請求原因一、二項の事実は認めるも、同三項は争う。

原告は原告の認める給与所得のほか、本件各事業年度において広島工業に金員を貸付け、その利息を取得した。

右利息収入の明細は別表記載のとおりであり、これを雑所得と認定した被告の本件各処分に瑕疵はない。

第五、証拠

原告訴訟代理人は甲第一ないし五号証、第六ないし一〇号証の各一、二、第一一ないし一五号証、第一六、一七号証の各一、二、第一八号証の一ないし一〇、第一九、二〇、二一号証、第二二号証の一、二、三、第二三、二四号証の各一、二、第二五号証の一ないし四、第二六号証の一、二、第二七、二八号証、第二九号証の一、二、第三〇ないし三六号証、第三七、三八号証の各一、二、第三九号証、第四〇号証の一、二、三、第四一号証の一ないし五、第四二、四三号証、第四四号証の一、二、第四五、四六号証を提出し、証人網谷敏、同網本綱一、同岡村寿の各証言及び原告本人尋問の結果(第一、二回)を援用し、乙第一ないし第五号証、第八号証の一ないし四、第九号証、第一三、一四号証の成立は不知、その余の乙各号証の成立はすべて認めると述べた。

被告指定代理人は、乙第一ないし六号証、第七号証の一ないし六、第八号証の一ないし四、第九号証、第一〇号証の一ないし一四、第一一号証の一ないし一〇、第一二号証の一、二、第一三、一四、一五号証を提出し、証人森清、同三輪良亮、同山本喜一(第一、二回)の各証言を援用し、甲第一九号証、第二二号証の一、二、三、第二五号証の一ないし四、第二六号証の一、二、第二七、二八号証、第二九号証の一、二の成立は不知、甲第一一号証、第一三号証は原本の存在成立ともに不知、その余の甲各号証の成立はすべて認めると述べた。

理由

一、請求原因一、二項記載の事実及び原告が昭和三五年度に金一四四、〇〇〇円、昭和三六年度に金八八、〇〇〇円、昭和三七年度に金七六、〇〇〇円、昭和三八年度に金八八、〇〇〇円の給与所得を得ていたことは当事者間に争いがない。

二、証人山本喜一(第一、二回)同網谷敏、同岡村寿の各証言及び原告第一回本人尋問の結果並びに証人山本喜一の証言により真正に成立したと認められる乙第一ないし四号証、第八号証の三、第九号証、証人網谷敏の証言により真正に成立したと認められる乙第五号証、原告第一回本人尋問の結果により原本の存在及び成立の認められる甲第一一号証、第一三号証、成立に争いのない乙第七号証の一ないし六、第一〇号証の一ないし一四、第一一号証の一ないし一〇、甲第一六号証の一、二、第三一ないし三五号証を総合すれば、

(イ)  広島工業は同社の常務取締役である俵千秋が原告と知り合いであつたところから融資を受けるについて原告と交渉したこと、右交渉には主に同社の経理を担当していた山本喜一が当つていたが、同人は融資金の受取り及びその返済並びに利息の支払等は専ら原告との間においてのみこれを行つていたこと、広島工業は借受金の返済及びその利息として本件係争年度中ひんぱんに原告に金員を支払つており右支払金の大部分は、右支払日に接着した日に広島県厚生信用組合草津支店の吉田次良名義の普通預金口座に入金されているところ、右預金の引出し及び預け入れは原告において行つていたこと、債務の支払いに困窮した広島工業は昭和三九年四月初め、原告を相手方として債務の支払方法に関して調停を申立て、申立ての理由として、昭和三二年頃から数十回にわたり相手方から金員を借受けたが高利のため支払いに窮している旨主張したのに対し、原告が右主張事実を否認した形跡はない。

(ロ)  広島工業と不二建設との間には、昭和三〇年頃からいわゆる融通手形の交換が行われていたが、昭和三五年頃になつて広島工業振出にかかる融通手形が不渡になることが多くなつたため右融通手形の交換は昭和三五年六月二一日頃をもつて打切られたこと、右打切りの時点においては融通手形の決済は相互に完全に終了していたこと、しかるにその後も引続き広島工業は原告から融資金の交付を受けたり原告に対して融資金及び利息の支払いをしており、しかも右支払金の大部分は同日以前と同様に前記草津支店における吉田次良名義の普通預金口座に入金されていること、係争年度当時において不二建設は営業成績は不振で収支は毎期殆ど赤字であり、従つて他に融資できる程の余裕はなかつたこと、又昭和三〇年度から昭和三四年度にかけての毎期の利息収入はいずれも金一万円にも満たなかつたことが各認められる。

ところで原告は、不二建設が融通手形の振出を打切つてから後は原告の紹介により福田一夫が広島工業に融資するようになつた旨供述し(原告第一、二回本人尋問)、証人岡村寿も同趣旨の証言をしているが、証人山本喜一(第一回)、同三輪良亮、同網谷敏の各証言に照すと、そもそも福田一夫なる人物の実在すら疑わしいところ、仮に同人が実在するとしても右(イ)認定の事実特に前記乙第一、二、三号証及び乙第八号証の三によつて認められるところの、広島工業が借受金の返済及び利息として支払つた金員の大部分が昭和三四年中即ち原告の供述によれば福田一夫が広島工業に融資するようになつた時期以前から昭和三八年末迄を通じて前記吉田次良名義の普通預金に入金されている事実に照し、右原告の供述および証人岡村寿の証言は措信しがたい。

以上によれば、広島工業が原告を通じて借受けた金員の貸主は福田一夫でも不二建設でもなく、原告自身であると認めるのが相当である。もつとも、原告本人尋問(第一、二回)の結果及び証人岡村寿、同網本綱一、同網谷敏の各証言及び証人岡村寿の証言により真正に成立したと認められる甲第二二号証の一、二、三第二五号証の一ないし四、第二六号証の一、二、成立に争いのない甲第一八号証の一ないし一〇、第二〇、二一号証、第二三、二四号証の各一、二、第三七、三八号証の各一、二、第三九号証によれば、昭和三九年三月頃「福田一夫」の所持する広島工業振出の手形が不渡になつたため、不二建設が「福田一夫」から裏書人としての責任或いは保証人としての責任を追及され、「福田一夫」から広島工業振出にかかる手形額面合計金九〇〇万円位を支払期日未到来の分も含めて買受けた形跡がないではないが、仮にそのような事実があつたとしても、それが直ちに広島工業に対する融資金の貸主が原告とは別人の「福田一夫」であるとの結論を導き出すものとはいえず、かえつてさきに(イ)(ロ)で認定した事実、証人網谷敏の証言により成立の認められる甲第一九号証及び弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一四号証に照すと、それは原告が広島工業から貸金の見返りとして手形の振出を受けた後これを「福田一夫」に渡し、後広島工業が不渡を出したところから原告或いは原告が代表取締役をつとめる不二建設が「福田一夫」から買戻しを要求されたことによるとも考えられるのであつて、右事実をもつて、前記認定をくつがえすことはできず他に前記認定を左右するに足る証拠はない。

三、そこで次に、原告が本件係争年度中に広島工業から受入れた利息の数額について検討する。

(一)  証人山本喜一(第一、二回)の証言及び右証言により真正に成立したと認められる乙第一ないし四号証、第八号証の二、第九号証、第一三号証によれば、広島工業は原告からの借入金及びその返済、利息の支払等は、昭和三六年頃まではいわゆる裏帳簿に、その後は正式の帳簿に記載していたが、乙第一、二、三号証は右金銭の出入りを記載した帳簿であり、広島工業では右帳簿を記載するに当つては、利息を天引されたとき、現実に支払つたとき及び利息を元本に組み入れたときに、利息を支払つたものとして記帳していたこと、更に広島工業は、乙第一、二、三号証に記載する外、振出人尼ケ崎製鉄株式会社、額面金三一八、七五〇円、支払期日昭和三八年四月八日の手形を昭和三七年一〇月三一日頃、割引料金二五、五〇〇円で原告から割引を受けた事実があることが認められる。そして広島工業が原告に対して右以外に利息の支払をした事実を認めるに足る証拠はない。(乙第八号証の二には、利息支払いのための小口借入れとあるが、乙第一号証と対比すれば、右小口借入れは利息支払のためだけでなく元本支払いのための借入れも記載されていることがわかる。又利息を元本に組み入れた場合には、広島工業はその時点において利息の支払をなした旨記帳していることは前記認定のとおりであつて、利息を元本に組み入れ、右組み入れ金を支払つたときに、その組み入れ金を元本の返済として記帳しながら、利息の方は支払いがなされたような記載をしなかつた事実があつたことは認められない。又前記認定の事実に照すと、吉田次良名義の普通預金口座に入金されていて、広島工業の帳簿には利息の支払いとして記載されていない金員のうち小額のものにつき、広島工業が原告に支払つた利息であると認定することはできない。)

(二)  右認定の事実と乙第一、二、三号証の記載とによれば、原告が広島工業から受入れた利息(謝礼の名目で受取つたものも含む)は

(イ)  昭和三四年度 受取利息金一、六〇一、七五八円、戻し利息金九六〇円、差引金一、六〇〇、七九八円

(ロ)  昭和三五年度 受取利息金二、四二二、八八八円、戻し利息金一四、八五〇円、差引金二、四〇八〇三八円

(ハ)  昭和三六年度 受取利息金二、九三六、八一九円

(ニ)  昭和三七年度 受取利息金三、一二六、七〇九円(尼カ崎製鉄株式会社振出にかかる手形の割引料金二五、五〇〇円を含む)戻し利息金三三、〇五七円、差引金三、〇九三、六五二円

(ホ)  昭和三八年度 受取利息金八、一七二、八三一円(謝礼を含む)戻し利息金三、〇九四円及び支払利息金一、二〇〇円、差引金八、一六八、五三七円(原告が本年度中に広島県厚生信用組合草津支店に対し金一、二〇〇円の利息を支払つたことは被告においてこれを認めるところである)

であると認められる。(本件においては、金銭消費貸借の金額、利率、成立年月日、返済期限等が証拠上必ずしも全てについて判明しているわけではなく、しかも被告自身債権確定主義を厳格に貫いているとは思われないので、現実に収入したとみられる年度において所得があつたものとし、年初未収利息の控除、年末未収利息の加算については特に問題としない。)

四、以上によれば、原告の総所得金額は昭和三四年度金一、六〇〇、七九八円、昭和三五年度金二、五五二、〇三八円、昭和三六年度金三、〇二四、八一九円、昭和三七年度金三、一六九、六五二円、昭和三八年度金八、二五六、五三七円である。よつて原告の請求は右各金額を超える部分については理由があるのでその限りにおいて認容しその余については理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用は民事訴訟法第九二条により一五分してその一を被告の、その余を原告の負担とすることとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡田勝一郎 裁判官 高篠包 裁判長裁判官胡田勲は転任のため署名押印できない。裁判官 岡田勝一郎)

利息収入明細表

〈省略〉

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